2020年08月29日

「ゆめ」

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  ゆめ

雪原をあゆみしのちの目の闇の緑の春はいまだし遠し

朝まだきかまどの湯気ののぼりくる 杵搗く音はすこしくぐもり

掛布団はねのけ土間へかけおりるおもちつきだねお餅搗きだよ

じいちやんが降り下ろす杵つき臼からお餅がはねる相の手が「はい」

ばあちゃんの鼻水ぽとりあんこ餅うる餅芋餅ぬくぬくできた

前髪の毛たぼのかろししぼしぼの赤い鹿の子を桃割れにまく

初髪の桃割れにさすかんざしのつまみ細工に揺れるビラビラ

百足屋の足袋はキャラコの白足袋で小鉤をとめるくすぐつたさに

首すぢにさやるウールの暖かさ母仕立てたる朱の格子縞

夜半の波がシーグラスひとつ零したりやがて涙は枕をぬらす



  tamayaさん、ありがとう。
ラベル:短歌
posted by 文(ぶん) at 08:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年08月23日

「土佐文旦」

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  土佐文旦

六歳と凧揚げをして電線に凧をからめる正月七日

恵利さんに頂戴したるチョコレヰト舐めなめ帰るチョコレヰトは愛

喪中欠礼賀状寒中見舞ひ書かずソリティアをする声もたてずに

朝霧のやがてあがりて山の辺にたなびき残る斐伊川にそひ

湖が見えるスターバックス喧騒に『そらみみ』読めば空はあかるむ

山羊の乳のチーズケーキを試食してみつつばかりを包んでもらふ

木芽月小草生月雪消月二月氷雨の降りみふらずみ

妹の送りくれたる土佐文旦ひらけばむつちり段ボールに満つ

土佐文旦届きしうへは母のごとむき身にしたりひと房づつを

おとうちやんの本棚にある『幽霊』をソファーの陰にこはごは開く

『楡家の人々』その大方は忘れたり茂吉にであふ半世紀の昔
ラベル:短歌
posted by 文(ぶん) at 11:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする